隠れた所見を引き出す

 「〝No Bedside No Education″」。これは、医師は時間を惜しまずに回診を繰り返すことで育つ、という意味の言葉で、私がつくりました。いまは電子カルテが普及して、モニターに映る検査結果を見ながら病状と治療方針を説明し、患者さんの顔を見ずに診察を終える医師もいるそうです。しかし、ベッドサイドで学んだ医師は、患者さんの顔色や表情を見て、検査の数値からは読み取れない病状の変化を知ろうとします。
私は研修医の皆さんに、ベッドサイドでの診察のように、五感をフルに使う「身体診察」の技術を教えています。身体診察では、診断にかかわる情報を逃さないように患者さんの訴えを注意深く聞いて、患部を触って聴診器を当てて、所見を得ます。身体診察をする前に検査を終えたほうが診察時間を短くできますが、患者さんから直接所見を得てから検査の内容を決めることで、検査の精度が上がります。

 

そしてなによりも、患者さんの顔を見ながら病状を聞き、体に触れることで癒しを与えることができます。私は、かならず患者さんの体に触れます。このマインドを研修医の皆さんにも、受け継いでほしいと思います。
研修時に身体診察について学べる病院は、全国的に見ても多くはありません。私は幸い病歴や身体診察を大切にする文化のある病院で研修できたので、日々のカンファレンスでも、身体診察についてディスカスをするのが当たり前でした。その点でいえば、この多摩病院は身体診療の教育に対して理解が深く、私も研修医の皆さんと一緒に、患者さんを診ながら教えています。さまざまな患者さんを診ている総合診療内科の医師が中心となって教えることが重要で、経験にもとづいて具体的な診断例を教えることができます。
初期研修中は、特定の診療科に偏らないように、コモン(一般的)な症例をできるだけ多く診るというスタンスが理想的です。専門医をめざす人にとっても、さまざまな症例の患者さんを診て診察の基礎を身につければ、専門医としての診察力を高めることができます。後の進路にかかわらず、研修中はコモンな症例を数多く診てほしいですし、多摩病院はその環境を整えています。

私は2017年の秋から指導医になりました。大学病院で学生の指導をした経験はありましたが、指導医として研修医を預かるのははじめてです。自分の指導が研修医の人生に影響を与えると考えると、責任の重さを感じます。一方で、若い研修医が私の話を熱心に聞いてくれる姿を見ると、自分が持つ知識をすべて伝えたいという意欲がわいてきます。ともに成長していることを感じながら、これからも多くの研修医を迎えて、お互いに学び合いたいですね。

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