診療の質向上を文化に

 医学の世界では、毎年3万以上のランダム化比較試験が実施されます。私たち医師は、日々増えていく医学情報の荒波に揉まれながら、目の前の患者さんにベストな診療を提供することを求められます。診療の質というのは、外からはなかなか違いが分かりにくいものです。しっかりとした科学的根拠がない古くからの慣習的な診療でも、患者さんにとっては良し悪しを判断する材料がありません。しかし私達は、常に最新の科学的な根拠に基づいた診療を目指し続けることが、患者さんの利益に繋がると信じ、診療の質を高めることにこだわっています。
 私は医師になって10年が過ぎたころから自らの診療の質や教育スキルの向上に限界を感じ、一つの打開策として米国留学することを選びました。留学先のピッツバーグ大学医療センターで驚いたのは、研修医や若手医師でもエビデンスに基づく医療を実践する能力が高い点です。得られた科学的根拠を元に、実際の診療場面でのエビデンスの適用を考えるスキルが全体に高いと感じました。これはアメリカの医学教育において、情報収集や吟味の仕方の教育システムが重視されているためです。私自身もこのスキルを磨いたことで、今は留学前と少し違った視点で診療に臨めていることを実感します。
2017年の9月に多摩病院総合診療センターに赴任して以降、こういったエビデンスに基づいた診療を行うのに不可欠な情報収集や吟味の能力(Information Masteryと呼ばれます)を当センターでの教育の一つの柱として、日常診療や抄読会を通じて向上させるよう取り組んでいます。


 医師はみな、研修時に指導医から学んだことが長年のベースになります。トレーニングの時期に、質にこだわる文化の組織で過ごすことは、その後の医師人生を方向付ける大事な経験となります。多摩病院総合診療センターではこういったinformation masteryを重視した質向上の文化に加えて、多様な研修後のキャリアをサポートできる土壌があります。
診療セッティングとしては、病院規模が大きすぎも小さすぎもしないため、街中で見かける一般的な病気から、大学病院で対応するレアケース・重症例まで多様な経験ができます。市中病院でありつつ管理者が大学という特性から、大学病院の専門性の高い医師の出入りも多く、ジェネラリストが腕を磨くには最適です。
 教育の場としても救急症例から入院症例まで経験量が多く、常に医学生、初期研修医、後期研修医がいる賑やかな環境ですので自然と屋根瓦による教え合いの文化が根付いています。さらに特筆すべき点は、前述のように指定管理者が大学であるために研究などアカデミックな活動への道が十分に開かれている点です。医師のキャリアの前半にはなかなか意識されない点ですが、所属施設内で大学院を併修できたり、大学の諸々のリソースを活用して研究実施のサポートも得られることは、通常の市中病院ではまずありません。その意味で、大学病院と市中病院の良さを兼ね備えた環境だと言えます。
ここ多摩は、診療の質を高めながら各メンバーの多様なキャリアをサポートできる、胸を張って勧めることができる職場です。

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